「ここです。……はしたない寝相で寝ていても、子供なので大目に見てやってくだされ」
ジェフリーが鍵を開け静かに扉を開けると、ふっと甘い匂いが鼻に掠ったような気がした。
花? ポプリ? いや、菓子だろうか。心安らぐような甘い香りをかすかに感じて、ギルバートの胸がトクトクと心地よく鳴る。
「大丈夫、起こしはしない。少し顔を見るだけだ」
そう言ってギルバートは燭台を受け取ると、部屋の中へ足音を立てないよう気をつけながらひとりで入っていった。
少女の寝室にはこぢんまりとした本棚に花柄の生地を張った長椅子、それに四柱式のベッドが備えられている。小さなサイドテーブルの上には愛らしい人形とリボンが置いたままになっていて、ギルバートの好奇心をさらに掻き立てた。
カーテンのタッセルの代わりにもリボンが結んであったり、窓辺には小さな花瓶に野の花が飾ってあったりと、離宮での自分の部屋とは全然違うことにギルバートは感動する。
——子供って……女の子って、面白い。なんだかすごく可愛い。
誰かを可愛いなどと感じることは、もちろんギルバートにとって初めてだ。自分でも不思議だった。こんな感情が胸の奥から勝手に湧いてくるのが。
そしてギルバートは四柱式ベッドの隣に立ち、閉められていたカーテンをそっと手で開いて中を覗き込む。
「……わぁ……」
思わず、小さく感嘆の声が零れた。
微かに香っていた甘い匂いが、ふわりと濃く鼻に感じた。
大きなベッドの真ん中で眠る身体は小さく無防備で、なんて愛らしいのだろうか。
蝋燭の仄かな明かりに照らされた顔はあまりにも無垢であどけない。
白くふっくらとした頬はまるでミルクブランマンジェのようで、ギルバートは甘い匂いはこの少女自身から香っていたのだなと感じた。
寝息をたてる唇は小さく、瑞々しい桃色がたまらなく魅力的に見える。
瞼を閉じているので瞳が見えないのが残念だったけれど、揃った睫毛に縁どられているそれはきっと美しいだろうと予想できた。



