「孫娘のリリアンですが、殿下よりふたつ年下の十歳になります。殿下に無礼の無いよう、よく言って聞かせますが……なんせこの通り、田舎で年寄りとのふたり暮らしで育ったものですので世間知らずな孫娘でございます。どうぞ大目に見てやってください」
眉尻を下げて語るジェフリーの表情には、優しさや慈しみが滲み出ている。きっとこれが家族愛や親子愛というものなのだろう。
人のこんな表情を初めて見たギルバートの胸が、キュッと切なさでしめつけられる。
——リリアン、か。よほど祖父に愛されているんだな、その娘は。
生まれたときから孤独で肉親の無償の愛というものを知らない彼にはそれが羨ましくもあり、そんな愛情をかけてもらえる孫娘の存在がどうにも気にかかって仕方なくなった。
「その娘と会ってみたいな。顔が見てみたい」
ギルバートがそう言って立ち上がると、ジェフリーも隣に座っていたロニーも当然驚いた様子を見せる。
「あいにくですが、今夜はすでに床に就いております。もうぐっすり眠っていることでしょう。明日には身支度を整えて挨拶をさせますので……」
「いや、今がいい。顔を見るだけだ。起こさなくていい」
きっぱりと言い切ると、ジェフリーもロニーもさらに目を大きく開いて驚いたが、ギルバートはどうしても好奇心が抑えきれなかった。
初めて離宮を出てロニー以外の他人と深く交流して、気持ちが高揚していたのかも知れない。ましてや自分と同じ子供と会うのなんて初めてだ。気持ちが逸らない訳がない。
ギルバートの強い意志を感じたジェフリーは「分かりました」と了承すると、蝋燭の乗った燭台をもって自ら三階まで案内した。



