「ここにはわしと孫娘、それから幾人かの屋敷仕えしかおりません。客人も滅多に訪れません。ギルバート殿下、どうぞ安心してお過ごしくだされ」

ロニーが身を隠す場所に選んだのは、王都から遠く離れた田舎町の屋敷だった。なんでも母ミレーヌの元側近の男の屋敷だという。

ジェフリーと名乗ったその男も、母と同じセイアッド人らしい。
彼が信用に価する人物かはまだ分からないが、深夜に突然訪れたギルバート達をすんなりと受け入れてくれた懐の深さは、ロニーに聞かされていた母ミレーヌの慈悲深さに通ずるものがあるな、とギルバートは感じた。

ジェフリーは真夜中にも拘らず迅速にギルバート達に着替えや食事を振る舞ってから、応接室でこの屋敷のことを説明した。

「屋敷仕えらも長年わしに仕えている者ばかりです。中にはセイアッドから来た者もおります。殿下のことは他言しないと信じて大丈夫でしょう。もっとも、この通り周囲は畑と森ばかりで噂など流しようもないのですがな」

テーブルを挟んで向かい合ったソファに座り、ギルバートはリキュールの入ったココアを飲みながら話を聞いた。

広く清潔ではあるが年期の入ったこの屋敷でさえ、ギルバートの目に映るものはなんでも珍しい。
壁紙ではなく鏡板張りの壁、しっくい細工の天井、浮き出し繰り型の暖炉に大形の箱時計。
どれもこれも温かみを感じられて気に入った。

部屋の造りにギルバートが好奇心の眼差しを走らせていると、ジェフリーが「あと、それから……」と少し改まった口調で話を続けた。