——その日、ギルバートは初めて『世界』を知った。


十二年間閉じ込められていた離宮を脱し、夜の帳を裂いて走る馬車から見た景色のなんと鮮烈だったことか。

シルヴィア一派から命を狙われ王都を脱出してきたというのに、ギルバートの胸は抑えきれない高揚感に高鳴っていた。

町、家、森、川、橋、畑……何もかも、手が届きそうなほど近くで見るのは初めてだ。こんなにもたくさんの人が、命が、自然が、本当に存在していたのだと肌で感じられる。

薄暗い離宮の建物内と窓から見える景色が自分の知るすべてだったギルバートは、十二歳の夜、初めて『世界』を知った。