知らない山を下手に歩き回ることが危険なことぐらい、ギルバートにも分かる。特に雑草が茂って足場が見えにくいここは危険だ。段差で転んだり、見えなくなっている川や崖に落ちる可能性がある。

ここにとどまった方がいいと判断したギルバートは、鞄から火打石を出して辺りを見回した。

「煙をあげれば、屋敷から見えるかもしれないな。ロニーが気づいてくれるといいんだけど……」

藪に燃え移らないように、空を見上げて風向きを確かめているときだった。
「きゃあっ!」という高い叫び声が、南の方角から確かに聞こえた。

「リリー!?」

声を耳にしたギルバートが反射的に立ち上がる。

「リリー、いるの!? どこ!?」

声のした方角に向かって大声で呼びかけると、また同じ方角から声が返ってきた。しかし。

「ギル!? だ、駄目! こっちに来ちゃ駄目ぇっ!!」

なぜだかリリアンの声はギルバートが来ることを拒否した。それも必死な様子で。

これはただごとじゃないと悟ったギルバートは、声のした方向に向かって駆け出す。
生い茂る雑草が邪魔で、思うように足が進まないのがもどかしい。

「リリー、どこ! いたら返事して!」

「駄目! こっちに来ちゃ駄目! 逃げて!」

やはり何かが起こっているようだ。ギルバートは外套の下に隠していた剣の柄を、汗の滲む手で握る。

そして、声の方角を確実に見極めて藪の中を走り抜けたときだった。