「本当よ。嘘じゃないわ。冬になる前、ここで見たんだから!」

せっかく張り切ってギルバートにウサギを見せるつもりだったのに上手くいかず、リリアンはどうやらヘソを曲げてしまったようだ。

「嘘だなんて思ってないよ。ただ、半年も経っちゃったら、他の動物に見つかって移動してる可能性が大きいと思っただけさ」

ギルバートとしては本で得たごく普通の知識を述べたつもりだった。しかし、それは“年下の頼りない”ギルバートが口に出すべきではなかったと、すぐに後悔する。

「どうしてギルがそんなこと分かるのよ! 山に入るのは初めてって言ってたくせに!」

失敗した、と思ったときには遅かった。“何でも知ってて頼りになる年上のお姉さん”としてのプライドを傷つけられたリリアンは、菫色の瞳を涙で潤ませている。

「私の方が山のこともウサギのこともよく知ってるんだから!」

そう叫ぶとリリアンはひとりで藪の奥へ進んでいってしまった。大人の背丈はあろうかという巨大なチガヤが、あっという間にリリアンの姿を見えなくしてしまう。

「リリー! 駄目だよ、危ないよ!」

慌ててその背を追うが、リリアンはどんどんと低木とや雑草の藪の中を進んでいってしまった。

「ギルはそこで待ってて! 私はウサギを探してくるから、動いちゃ駄目よ!」

そう叫ぶ声が聞こえたが、当然ギルバートは待ってなどいられない。バサバサと行く手を遮るチガヤの葉をうっとおしく除けながら、必死でリリアンのチョコレート色のワンピースを追いかけた。