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「来栖さん、今朝は雅くんと一緒じゃなかったんだ?」
「あ……うん」
わたしはクラスメイトからたびたび話しかけられる。
……兄のことで。
兄と登校しなかったことを、目ざとい子に気づかれた。
「えーっ。なんでなんで? いつも朝は一緒のイメージあるのに」
茶色い髪をポニーテールにして両耳にキラリと光るピアスをつけている彼女の名は、柏木(かしわぎ)さん。
「今日は……わたしが寝坊しちゃって。お兄ちゃんは日直だって急いで出てたから、それで……」
「ん〜! やっぱ羨ましすぎ!!」
「え?」
「いやさ、そういう話を聞いてると二人はほんとに一緒に暮らしてるんだなって。あたしも雅くんみたいなイケメンの兄がほしい!! あわよくば、間違いが起きてほしい……」
……へ?
〝まちがい〟?
「おい、柏木。来栖が固まってんぞ」
永浜くんにツッコミを入れられた柏木さんが「これくらいで?」と笑う。
「来栖、いかにも純情って感じだもんな」
「なにそれぇー。あたしが軽いって言いたいの?」
「別にそんなこと言ってねーじゃん」
「でもそういう意味だよねぇ?」
ちょっとちょっと。
「喧嘩しないで、永浜くんと柏木さん……!」


