「うららーっ。雅くん?」


階段の下からわたし達を呼ぶ母の声が聞こえてくる。


「あーあ。いいところだったのに」

「…………」

「ひとつ、覚えておいて欲しいんだけど」


突然、兄が真顔になる。


「しようと思えばいつでもできるから」

「……え?」

「しないだけだから」


……なにを……?


「そうだ。手伝ってあげようか」

「手伝う?」

「着替え」


ここで、ようやく兄がいつもの意地悪な顔つきになる。

さっきはビックリした。

真顔というか……

なんだか真面目な顔つきに見えたから。


「自分で着替えられる……!」

「あっそ」


そういって立ち上がると、扉まで歩いて行きチラリとこちらを振り返った。


「ほんと……全然わかってないよね」

「……?」


なにがいいたいの?


「そうそう。今日は日直だから、俺もう行くよ。せいぜい遅刻しないようにね」


それだけ言うと、この日、兄は足早に家を出て行った。