「まあ……何があったかなんて、どうでもいいけど。だけどちょっと気に食わないなぁ」


そういうと——兄が、わたしに近づいてきた。


「いつも下向いて歩いてるうららが、前向いてるのは」

「な……」


髪をぐしゃっと鷲掴みにされる。


「っ、」

「痛い?」

「いた……い、」

「離して欲しい?」

「……うん」

「なら、そんな顔しないで?」


——わたし、どんな顔してた?


「うららは、いつも俯いているでしょ。自信なさげに」

「そんなこと……」

「あるよ。そんなこと、あるよ?」


髪を掴む手にぐっと力がこめられる。


「もっと困った顔しててよ」


どうして。


「うららを救えるのは、俺だけだよ」


わたしを……〝救う?〟

お兄ちゃんが?


「わかる?」


……わからない。


もう何年も、わたしは兄に怯えている。


兄から逃れたいと考える日はあっても

兄に救われたと思うことなんてない。