母が行方をくらました。


正確には、生まれ故郷にいるらしいということが判明した。



ふぅ、と軽く息を吐く。


「ため息ついてると幸せが逃げてくぞ?」

「……え!?」


昼休み、ひとりで非常階段にいると伊勢谷先生が現れた。


「どうしたんですか、こんなところに」

「こっちの台詞」

「わたしは……よく中学の頃から、こうしてひとけのない場所にきてました」


最近は友達と過ごすことが多かったけれど。


「ひとりで考えごと? ならお邪魔したかな」

「いやっ……そんなことは」

「そうか。ため息つくと幸せが逃げる説は、若者には浸透してないのか」