「なんで……こんな、こと……」

「ねぇ、うらら。どうしてくだらないジンクスが出回るかわかる?」

「え?」


そういえば桜井さんが嬉しそうに話していた。

たしか、付き合っていない男女がこの観覧車でキスをすると結ばれるっていうジンクスだ。


「頂上は死角でしょ。周りに大勢の人がいる中、誰にも見られない閉鎖空間でキスしてドキドキしたら好きって錯覚しちゃうんだよきっと」

「錯覚……?」

「どうせそんなの一時的な感情なのにね」

「…………」

「まあ、恋なんて曖昧な感情そのものが、どれも一過性にすぎないけど」

「そんなこと……ないでしょ? 好きな人とずっといたいと思える人だって世の中にはたくさんいるよね?」

「そんな人いる?」

「いるよ! だから結婚だってするし」

「だけどうちの両親、再婚してるよね。それって別れてるってことだよ? 所詮そんなもんだよ」

「違う……みんながみんな、そうじゃない。お義父さんとお母さんだってあんまり会えてないけど仲いいでしょ?」


兄が真顔になる。


「お兄ちゃん?」