「やっとウザいのから開放された」


向かい側に座り、足を組んで冷たく吐き捨てる兄。


「やっぱりこんなとこ来るもんじゃないよね。なにが楽しくてわざわざ足を運ぶのか心底理解できない。人は多いし。空気悪いし。無駄な体力使うし」

「…………」

「どうしたの黙って」

「みんなといると疲れるから、わたしと、乗ったの?」

「当然でしょ」


そっか。そうだよね。

深い意味なんてないよね。


だけどわたしを選んでくれたんだ……。


兄の身勝手な行動が嬉しいと感じているわたしは重症だ。


「あとひとつ」

「え……」

「あとひとつ乗ったら帰るよ」

「……もうちょっといたい」


みんなは夜のパレードみるって言ってたっけ。

わたしもみたいな。

だけどそれを見るには帰りが遅くなってしまう。

そんなの母が許してくれるだろうか。

いや、きっと帰ってこいって言われる。

遅くに出歩いたことなんてないから。

せいぜい地元のお祭りに行ったくらい。

そのときもそんなに帰りは遅くならなかったし母も一緒だった。


「それってあいつがいるから?」