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俺は、知っていた。
父が『ああいう』人間だと。
うららと暮らし始める前から、父の暴力は継続的に俺に向けられていたから。
それが、俺以外の人に向けられるとは思わなかった。
父が殴り蹴りする場合、人から見えないところを狙う。
溝うちとか。ふとももとか。
とにかく服で隠れる部分だ。
間違っても顔にあざを作ったりはしない。
だから、当事者しか気付かない。
あいつは『いい人間』を演じられる。
肉体的暴力に留まらず、精神的苦痛だって与えてくる。
——いつから?
雫さんへの暴力は、一時的なものなのか。
それとも……。


