「……なに、してるの?」


トイレに行っていたと答えるのを躊躇った。

至近距離にいる父に、俺たちの存在に気づかれたくなかったから。


うららを部屋に連れ戻そうとした、


――そのとき。


パシン、と素肌を平手で叩くような音が聞こえてきた。


【マズい】と思った。


俺でも脳が処理しきれていないのに。

うららには、刺激が強すぎる。


――うららを一刻もはやくここから遠ざけないと。


瞬時にそう思った。

なぜかは、わからない。

わからないけど、思わずにはいられなかった。


なのに。


「おか……あ、さん?」


うららは、見てしまった。


父が雫さんを突き飛ばすところを。