もうすぐ一年になるのに、一度も笑ってるの見たことない。
職場だから笑いがなくてもいいのかもしれない。

けど……あれはたしか私の作った書類に不備があったときのこと。


「天ヶ瀬さん。付箋貼った所、違ってるので直していただけますか?」


そう言うと、すぐに自分の作業にもどる主任。
お小言とか、雷が落ちるとか、そういうことが一切ない。

だから優しいのかというとそうではなくて、わずかなミスも見逃してくれない。
どんなに小さなミスでも必ず私のところに戻して直させる。

でも声を荒げて怒るわけでもない。

いっそのこと怒ってくれた方がこっちも「なんなのよ!怒ってばっか」って気持ちのぶつけようがある。
でもそれもないから、ただ毎日をビクビクと過ごして早一年。

ミスなく書類を作ること(当たり前なんだけど)、如何にこの堂地主任の手を煩わせないかって事だけを考えて仕事をしてきた。
それもこれも主任と少しでも関わる時間を減らしたいから……


「天ヶ瀬さん。今日はボードに書いたルートで最後直帰します。この書類、明日までにお願いします」


私のデスクに置かれた書類を見れば、ちょっと頑張らないと定時には終われないぐらいの束で……


「わかりました。お気をつけて」

「何かわからないことがあれば、いつもどおりメールして下さい」


なんと言ってもうちは携帯の代理店。
主任とのやりとりは基本メール。
営業の人は会社から仕事用携帯を渡されていて、そのアドレスはこの事務所のパソコンには全員分登録済み。


「わかりました」

「それでは……」


主任は私にやっと背を向けてくれて、しばらくすると事務所から出て行った。

主任がこのまま事務所にいたら、酸素不足になるんじゃないかっていうぐらい、どうやって呼吸したらいいのかわからないぐらい緊張した。

ハァー

……やっと息が出来る