「……おいしい」


甘くほっとする味のキャラメルマキアート。
緊張しているはずの私の口から出た言葉はそれだった。


本当はゆっくり飲んでる場合じゃないんだけど、なんとなく今は言い出せるような状況じゃなくて自然と仕事の話を始めていた。

今はどの店舗もそんなに問題もないみたいで三月の繁忙期までは落ち着いてるらしい。


そのまま仕事の話をしていたら、「そろそろ帰りますか」と主任に言われて一時間近く経っていたことに気づかされた。


こんな話をするためにここに来たんじゃない!
だけど目の前の主任はすでに席を立とうとしているから、私も慌てて帰り支度をした。


今日ここに呼び出した私に理由を聞いてこない主任。
紙袋を持ってる私に気づいてるはずなのに。


でも、コーヒーを飲むように言ってくれたのは、言い出しやすい雰囲気を作ってくれてたのかもしれない。
それなのに私はその雰囲気に甘えて仕事の話なんて始めてしまった。


コーヒーショップを出て主任の後ろからついていく。

……また失敗しちゃったんだ、よね。





うつむき加減に歩く私の目線に入ってきたのは主任の足もと。
そのまま顔を上げてみれば主任が立ち止まっていた。


「もう遅いので、送っていきます」


途中までは一緒だけど主任の家のほうが駅から近い。
仕事を終えて疲れている主任を付き合わせてしまったのに、


「え、でも。大丈夫ですから」

「暗いですし、それに……」


それに?


「いえ、行きましょう」


言いかけてやめるとか。
主任それ、すごく気になるんですけど。