今日で仕事納め。
お店の方は三十一日までやってるけど、事務所はお休みに入る。
緊急事態に備えて営業さんは携帯を手放せないらしい。ほんと営業さんって大変。

すでにデスクに座っていた主任に挨拶をして自分の席に座ろうとすると、


「天ヶ瀬さん、おはようございます。今日なんですが就業時間後にお時間いただけますか?」


と、挨拶に続けて一気に問われた。

就業時間後?
仕事終わりってこと?
って、……なんだろ?


「はい、なん―――」
「では、後ほど」


なんですか?って聞く暇もなくて。
その時間になればわかるけど。
でも気になるって言うか。


とはいえ、通常業務と変わらないぐらい忙しくて。
仕事納められないままに定時をむかえた。


「天ヶ瀬さん終わりますか?」


本当はきりが悪いけど、このままやってても進みそうにない。


「はい、これで終わりです」

「すぐに帰れますか?」

「はい。すぐ着替えてきます」


帰り支度をして戻ると、事務所に主任はそこに居ない。
確かに着替えだけじゃなくてメイクも直したりしたけど。ずいぶんと急いだから十分もかかってなかったはず。

近くに居た同僚に「あれ?主任、知りませんか?」と聞いてみれば


「さっき帰られたと思うけど」


えええええ?
なんで?
帰っちゃったの?


「そう、ですか……」

「なんか用事だった?」


心配そうに聞いてくれた同僚にさすがに主任と約束があるとかいえるはずはない。


「あ、いえ。大丈夫です」

「そ、じゃあ天ヶ瀬さん、良いお年を」

「あ、おつかれさまでした。良いお年を」


同僚にそう言って事務所を出た。


するとそこに壁に寄りかかってメールを打つ主任を発見。

え?寒いのに何で外?
コートを着ているとはいえ、今十二月で好んで外で待ってる人なんていない。

私は慌てて主任に駆け寄って、


「主任っ、すみません。寒いのにっ」

「いえ、私用ですから事務所で待つわけにはいきませんし」


私だったら寒いし全然事務所で待っちゃうけどな。
そういうとこまじめって言うか、堅いって言うか……


「あ、それで用事って?」

「天ヶ瀬さんおなかすきましたか?」


返ってきた言葉は予想していない言葉で戸惑う。


「…いえ、あの?」

「車、乗せてもらってもいいですか?」

「え?あ、はい、どうぞ」


へ?
なに?
車でどっか行くの?