思った通り、誰も居なかった。
静かな空間に包まれていて居心地がいい。

少し肌寒い気もするが9月ならではの気候だから仕方ない。

ベンチに座って、そっと目を瞑って、風の音に耳を傾ける。

このままいっそ消えてなくなってしまいたい…
そんなことをふと思い、自嘲気味に笑ってしまう。

そんなこと思ったって何も変わらないのに。

心地が良くてうつらうつらしていれば、声が掛けられた。

 「そこで何をしている」

その声は男性の声。
聞き覚えのない低い声に目を開けた。

声の主は数歩先に居て、刹那をじっと見つめていた。

彼の瞳を見て私は思わずじっと見つめ返してしまった。
とても綺麗な漆黒の瞳だ。

 「もう一度聞く、そこで何をしている」

彼はしびれを切らしたのか、もう一度同じ問をかけた。

 「…休憩していただけです。お邪魔だったでしょうか?」

この人は一体誰なのだろうか。
ベンチなら他にも幾らでも空いている。

…なんで何も答えないのよ。
彼の思考が読めない。

彼をじっと見ていれば、あることに気が付く。
確か、蓮花が言っていた”生徒会会長の容姿”と、
目の前にいる人物の容姿が似ているのだ。

漆黒のサラリとして髪と同じ瞳の持ち主。

…もしかしてこの人が本当に生徒会長なのかもしれない。

でも、そんな人が総会前にここに居るのは可笑しくない?
似たような容姿の人はいくらでもいるだろう。
でも、万が一、彼が会長だとしたら…
長く関わると後が厄介だ。

朝のあの教室の雰囲気を見れば誰だって分かることだ。
そんな人と少しでも関わってしまえば、恨みを買われるのは確実だろう。
面倒事に巻き込まれるのは御免だ。

さっさとここから退散しよう。