放課後、蓮花は私を空き教室に連行した。
無口なのが何よりも今怒っている証拠だろう。

彼女は私の目をジッと見つめたまま何も喋らない。

 「蓮花、話すの遅くなってごめんね」

ちゃんとその日に話すべきだった。
蓮花にも心配を掛けているのは、目に見えて分かっていることだ。

 「それ、どうしたの?朝の騒ぎと何か関係があるの?」

静かな声で言い、蓮花は私の頬を指さした。

 「何でもないよ。大丈夫」

 「嘘じゃんそんなの」

 「蓮花?」
 
あまりにも小さく言われた言葉で聞こえない。

 「刹那はどうしていつも嘘つくのよ…」

 「ごめん。でも、こんなの全然平気だから」

嫌がらせなんて全然平気。
蓮花に危害が及べば話は別だけど…

 「でも…」

 「私も相手に酷いことを言ってしまったもの。これはしょうがないわ」

蓮花の目尻にはうっすらと涙が溜まっていく。
こんな表情させたくなくて嘘を吐いたのに…

 「何で蓮花が泣くのよ。泣かないで」

次第に涙は溢れ頬を伝うのをハンカチで拭ってあげる。

 「ごめんね…」

何でこうも私は彼女を、大切な人を泣かせてしまうのだろうか…

 「っ刹那は…何も悪くないっ!」

 「蓮花?」

蓮花を私の頬に手をそっと添える。

 「守ってあげられなかった…刹那はいつも守ってくれるのに…」

 「そんなことないよ。朝、いつも通り話しかけてくれて嬉しかった」

ふわっと笑えば、蓮花はまた涙を溢れさせる。
…これは太一に後でお叱りを受けるな

 「自分を責めないで。蓮花はいつも笑っていて」

“笑っていて“

蓮花にはいつも言ってきた言葉。

彼女は優しいからそういえばいつも笑顔に戻ってくれる。
それを知っていて私はこの言葉を彼女に掛けるんだ。
酷なことをしている実感はある。

 「この先何があってもね」

なるべくこれからは蓮花と距離を置こう。
何かあってからじゃ遅い。

でも、今だけは握られている手を解きたくなくて私はきゅっと手に力を入れた。

こんなのはただの甘え。
でも、今だけでいいから許してほしい。
彼女の隣に居ることを…