それでも沙樹はできるだけ自分を抑えて、答えた。

「大丈夫です。ちょっと変な夢を見て、うなされただけです。なんでもありません」

「そう……?」

一美さんはまだ何か言いたそうにしていたが、沙樹は重ねて丁重に拒絶した。

「とにかく、なんでもないんです。じゃあ、あたし、着替えて寝ますから。失礼」

手荒にドアを閉めた。

ドアの外でたたずんでいる気配がする。

いらいらしながらドアの前で耳をそばだてていると、やがて、あきらめたように、ゆっくりと足音が遠ざかっていった。

沙樹はドアに背をもたせかけると、大きく息を吐いた。

胸の中に苦いものが広がった。汗が冷えるとともに、全身が不快感に包まれていった。