ドアをノックする音がして、外で女性の声がした。

「ちょっと、沙樹さん? 大丈夫?」

沙樹は顔をしかめた。

それでも、できるだけ平静さをよそおって、ドアの外に向かって答えた。

「大丈夫です。なんでもありません」

「ねえ、ちょっと、沙樹さん? 入るわね」

言葉つきこそ遠慮がちだが、いけずうずうしく、すでにドアを開けようとしている。

沙樹はドアにとびついて、それ以上開くのを押さえた。

「入ってこないで」

「そんなこと言ったって、大きな声出して、何かあったと思うじゃない」

少しだけ開いたドアの向こうに、三十過ぎの女性が真剣な面持ちで立って、沙樹を見つめている。

彼女に心配そうに言われると、かえってカチンとくる。

彼女は父親の再婚相手の一美さんだ。まだ三十二歳の、どちらかと言えば美人の部類に入る。四十七歳になる父親と、昨年再婚した。

以来、何かと母親面しようとする。

父がきのうから出張で留守にしているので、よけいに張り切っているのかもしれない。

うんざりだ。