そしてソファーに腰を下ろし、手渡されたグラスに注がれたのは、深みのあるルビー色の赤ワイン。口に含んでみれば、少し酸味のある滑らかな舌触りで、甘美な香りがほんわりと鼻から抜けていく。


「美味しい……」

「いつか希穂とふたりで飲もうと決めていたワインだ」


零士先生が指差したワインのラベルには、私が産まれた年の数字が刻まれていた。


「希穂と付き合うことになった時、たまたまネットで見つけてな。少し高かったが、大切な日の為に購入したんだ」


零士先生はすました顔で普通に言ったが、金額を聞いた私はグラスを持つ手が震える。


「……ひゃ、百万?」


この年は最高のブドウが取れたみたいで、近年にないいいワインが出来たそうだ。ワイン通の間では、今でもこの年のワインは伝説のワインと言われ人気があるらしい。


この一口はいくらになるんだろうと緊張気味にチビチビワインを味わっていたんだけれど、ふと、重要な言葉をスルーしていたことに気付く。


「あの、大切な日って?」

「希穂が本当に俺のモノになる日……」


まだ飲み始めたばかりのグラスを私の手から奪い取り、それをローテーブルの上に置くとそのまま私の体をソファーに沈めた。


「ゆっくりワインを楽しもうと思ったが、どうも我慢できそうにない」


眉を寄せ、私を見下ろす零士先生の瞳はアルコールが入っているせいか、少し潤んで見え、それが色っぽくてゾクッと体が震える。