――館長の入院から二週間が経った。


あの後、開催された輝樹君の個展は思っていた以上に多くの来場者があったみたいで、私も一安心。彼は来てくれた人の半分は学生時代の友人だったと苦笑していたが、それでもとても嬉しそうだった。


そして、彼は個展が終わった後も時々事務所に顔を出してくれている。でも輝樹君との会話はArielのことばかりで、先輩の新太さんの話題は皆無。なので、まだ私が新太さんの彼女だということは言ってなかった。


なんか言いそびれてしまって、今更……って感じだったから。


その新太さんだが、彼を怒らせてしまったんじゃないかと心配していたけど、どうやら私の思い過ごしだったようで、以前と変わりなく優しい言葉を掛けてくれている。


で、今日、環ちゃんから電話があり、館長の容態に変化がなければ、週末にも退院できるとのこと。


これでまた予約を受けることが出来ると喜んでいたら、その日の夕方、普段めったに顔を出さない薫さんが矢城ギャラリーにやって来て思いもよらぬことを言ったんだ。


「あのね、希穂ちゃん、この矢城ギャラリーのことなんだけど、手放そうと思って……」

「えっ?」

「父さんもあんなだし、今まで通りここでひとりで暮らすってのも心配でね、ウチのマンションで一緒に暮らすことになったの。それで、いい機会だからギャラリーも閉めようと思って……」

「矢城ギャラリーを……閉める?」