「じゃあ、あの話しが薫さんの情緒不安定の原因?」
「そういうこと。ママはね、まだ新太先生のことが好きだったんだって。だから新太先生が結婚するって分かってショックだったみたい」
「うそでしょ……」
あんな酷いことを言って去っていった男のことを今でも好きだなんて信じられない。でも、輝樹君が言った一言でハッとする。
「希穂ちゃんだって、薫さんを好きだと思っていた紺野先輩のこと、別れると決めた後でもずっと好きだったじゃない」
「あ……」
「本気で人を好きになるって、そういうことなんじゃないかな……罵られても裏切られても忘れられないのが、愛なのもね」
そうだね。それがどんなに辛いことだと分かっていても、好きという気持ちを消すことはできない。それは、私が一番分かっていたはずなのに……
でも、薫さんは新太さんが結婚したと知ると不思議なくらい一気に気持ちが冷め、踏ん切りが付いたそうだ。
「彼が独身のうちは、もしかしたら私の元に戻って来てくれるんじゃないかって淡い期待を持ち続けていたけど、結婚したと聞いたらつきものが取れたみたいにスッキリしてね……」
「そういうことだから、零士と薫の間に恋愛感情はないし、環ちゃんも零士の子供じゃない。納得してくれた?」
私の顔を覗き込み微笑む桔平さんに"はい"と言い掛けたのだけれど、昨日の飯島さんと文具売り場の女子社員の話しを思い出し、納得の返事の代わりに新たな疑問をぶつけてみた。
「なら、薫さんのキスマークは? 誰が付けたの?」



