同じ夢を持つ者同士、打ち解けるまでそれほど時間は掛からなかった。そしてある日の休日、都内の美術館で有名な画家の絵画展があると知り、零士先生は薫さんも誘って三人で美術館に行ったのだけど……
「零士の友人だったその男は、薫のことが気に入り、付き合いたいと言い出したんだよ。薫もまんざらじゃなかったようで、ふたりは付き合い出した」
「えっ……そうなんですか?」
薫さんの方に視線を向けると切なそうな目で浅く笑う。
「第一印象は凄く良かったの。明るくて優しくて……イケメンだったしね」
しかし付き合い出して数ヶ月後、薫さんはその男子の子供を妊娠してしまう。そのことを男子に打ち明けると態度が豹変して薫さんに罵声を浴びせたそうだ。
「何かの間違いだ。俺の子供じゃない。どうせ他にも男がいるんだろう……ってね。挙句の果てに子供の父親は零士なんじゃないかって言い出して……」
「そんな……酷い」
「当時の私は凄くショックだったわ。でもね、彼が逃げ腰になる気持ちも分からなくはない。だって、まだ十五歳だったんだもの」
でも、それを聞いた零士先生は怒り狂い、その男子をボコボコにしてしまったそうだ。すると男子の怪我を見た親が零士先生の家に怒鳴り込んできた。
向こうの親はそこで薫さんの妊娠のことを知ったのだが、息子が認めなかったので言い掛かりだと更に憤慨し、零士先生を名誉規則と暴行で訴えると言い出した。
おそらく男子の親も、自分の息子が薫さんを妊娠させたことが世間にバレることを恐れたのだろう。だから零士先生を訴えると言って脅しにかかった。



