イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】


「私が希穂さんに話した方がいいって言ったのは、零士先輩がArielだってこと。Arielファンの希穂さんにいつまでも黙ってるのは酷だと思ったのよ。

時間が経てば経つほど真実を知った時のショックが大きくなるでしょ? 隠していたことが原因でふたりが気まずくなったら元も子もないもの」

「ああぁぁ……」


またまた私は勝手に勘違いしていたんだ。でも、愛花さんのことは誤解だったとしても、環ちゃんが零士先生の子供だという噂は普通に囁かれている。


「でも、色んな所で環ちゃんは零士先生の子供だって聞かされました。だから私は零士先生と薫さん、そして環ちゃんが本当の家族になる為ならって、零士先生のこと諦めようと思ったんです」


私が肩を窄めシュンとすると桔平さんが零士先生と薫さんの顔を交互に見つめ「もういいよな?」ってため息混じりに訊ねる。


そう問われた零士先生は小さく頷き、薫さんは力無くフッと笑った。それがふたりの答えだと判断した桔平さんが静かに話し出す。


「希穂ちゃん、環ちゃんの父親はね、零士じゃないんだよ……」


――それは、今から17年前。まだ零士先生達が中学三年生だった頃の話し。


零士先生は薫さんに勧められて絵を描くようになり、すっかり絵画に夢中になっていた。なので、高校は美術専門学科のある高校を第一志望に掲げ、美大を目指す人達が通う絵画教室に通っていた。


そこで他の中学に通う同い年の男子と出会うことになる。