どういうことだと詰め寄る薫さんに、桔平さんは神妙な面持ちで零士先生が春華堂の社長になることを薫さんが望んでいたから、零士先生は本当のことを言えなかったんだと説明する。しかし薫さんは納得できないようで顔を顰めた。
確かに付き合っていて隠し事をされるのは気分のいいものじゃない。でも、それは薫さんの為。零士先生は、Arielという名を捨ててまで薫さんの願いを叶えようとしたんだ。
それがどういうことなのか……普通の画家が絵筆を折るのとはワケが違う。薫さんはどれだけ零士先生に愛されているか分かってないんだ。
そう思ったら黙っていることができず堪らず叫んでいた。
「零士先生は、薫さんを愛しているんです。零士先生の気持ち、分かってあげてください!」
「へっ……?」
なぜか素っ頓狂な声を上げる薫さんと桔平さん。その直後、来館者に説明を終えた零士先生が戻ってきて私の頭をポコンと叩く。
「誰が薫を愛しているんだって?」
「あ、だから零士先生が薫さんを愛して……」
もう一発、零士先生の拳骨が私の頭に炸裂する。
「痛っ……何するんですか?」
「希穂が的外れなことを言うからだ」
この期に及んでまだ隠そうとする零士先生に怒りを覚え「私はもうなにもかも知っているんですよ!」と食い下がると桔平さんが申し訳なさそうに私の肩をツンツンする。
「希穂ちゃん、零士はね、薫の人生を狂わせたのは自分だとずっと悔やんでいたから、せめて薫が望むようにしてやりたいって思っていただけで、愛情とかそういうのじゃないんだよ」



