「社長、お願いです。零士せ……あ、いえ、常務のこと、許してあげてください!」
「常務を許す?」
「はい、今まで自分の気持ちを押し殺して生きてきた常務が、やっと決心したんです。どうか常務と薫さんのこと認めてあげてください」
形振り構わずデスクに手を付き必死で訴えるが、社長はまだ私の言っていることが理解できていないようで、口をへの字に曲げ、大きく目を見開いている。
「君は何を言っているんだね? 私は零士も秘書の矢城君のことも認めているよ」
「えっ……本当ですか?」
怒鳴られるのを覚悟していたから拍子抜けして言葉を失う。
「まぁ、周りは色々言うが、私はあのふたりを認めている。……だが、それが君とどんな関係があるのかね?」
「あ、あぁ……特に関係はないのですが……社長の機嫌が悪いのは、常務と薫さんのせいだと聞いたもので……ふたりの本当の気持ちを分かってもらいたくて……」
動揺して言わなくていいことまで喋ってしまった。しまったと焦ったが、社長は予想に反してケラケラ笑う。
「そのことか。確かに初めにあの話しを聞いた時は怒り狂ったさ。でもね、ふたりがあまりにも一生懸命だったから根負けしてしまってね……許すことにしたんだよ。家族が増えるということは幸せなことだからね」
あ……
問題はとうの昔に解決していたんだ。そんなことも知らず、私がなんとかしなきゃなんて偉そうに社長に意見した自分が恥ずかしい。
私が出しゃばる必要などなかったんだ……



