「見たいけど、Arielが明日、お披露目したいと言っているなら我慢します」

「律儀なヤツだな。せっかく内緒で見せてやろうと思ったのに……」


零士先生が呆れたように笑い、私も少しだけ笑った。


暫く白い布が掛けられた絵を眺め、どんな絵なんだろうと心躍らせていたのだけれど、零士先生の一言で辛い現実に引き戻される。


「……で、あの裸婦画はどうする?」

「えっ?」

「お前が俺に描かせたあの裸婦画だよ」

「あ……」


私と別れても作品として持っていて欲しいと願って描いて貰った裸婦画だけど、薫さんと生きると決めた彼に、それを持っていて欲しいとはとても言えない。


「返して……もらえますか?」

「……分かった」


返してもらっても辛くて見ることなんてできないだろうな……


零士先生に気付かれないように小さなため息を付いた直後「明日、宜しく頼む」と、とても優しい声が聞こえてきて危うく泣きそうになる。


零士先生、やっぱり私は零士先生が好き。大好きだから、零士先生には幸せになって欲しい。愛する人が不幸になる姿なんて見たくないもの。


そう思ったら居ても立っても居られず、零士先生を残して階段を駆け下りていた。その勢いのまま矢城ギャラリーを出て春華堂へと全力疾走。そして私が向かったのは、最上階の社長室。


ノックもそこそこに社長室のドアを開けると秘書の姿はなく、社長がひとりで決済の書類に判を押していた。


「君は確か、矢城ギャラリーの……」


突然飛び込んできた私に面食らったようにキョトンした顔でこっちを見つめている社長に深く一礼し、覚悟を決め、口を開く。