「ヤダ~希穂(きほ)ちゃんの初恋の相手って、ド変態だったんだ~」


年上の私になんの敬意も払わず、タメ口でそうのたまうのは、七つも年下の女子高生。仕事中に私の初恋の相手のことをしつこく聞いてくるから鬱陶しくてつい教えてしまったが、只今、絶賛後悔中。


「ちょっと、変態って何よ?」

「変態じゃなくて~ド変態だよ。そんなキモい男に惚れた希穂ちゃんもどうかしてるね」


彼女は私が勤めている"矢城ギャラリー"の館長の孫、矢城 環(やしろ たまき)だ。


矢城ギャラリーがあるのは華やかな銀座。と言っても、大通りから裏道に入ったあまり目立たない場所にあって、人通りはさほど多くない。


銀座は細い路地を行くと今でも古い建物がけっこう残っていて、矢城ギャラリーのビルも昭和初期に建てられた和と洋が混在するレトロな建物だ。


人は古臭いと言うかもしれないけど、私はこのモダンな雰囲気が気に入り、絶対にこのギャラリーで働きたいって思った。けれど、こんな生意気な娘(こ)が事務所に入り浸っているとは知らなかった。


「ったく……環ちゃんが教えてくれって言うから話したのに……」


独り言のように呟くと彼女は光沢のある飴色の柱にもたれ掛かり、異常に短いチェックのスカートから伸びる長い脚をこれ見よがしに交差させ嗤笑(ししょう)する。


「だって、初心な中学生にそんなこと言うなんて完全にアウトでしょ?」

「あのね~芸術よ! 芸術!」

「芸術? あはっ、希穂ちゃんたら、本気でそんな風に思ってるの? バッカみたい~」