色んなことがあって忘れていたけど、結局、あの絵を見ることはできなかった。


「あぁ、無事期限に間に合ったよ」

「そうですか。良かった……受賞できるといいですね」


精一杯の笑顔でそう言い、零士先生と距離を取ろうと歩き出す。が、革靴の足音が追いかけてきて手首を掴まれてしまった。咄嗟にその手を振り払おうとしたけど、彼の手が手首から離れることはなく、引っ張られるように歩き出す。


「あ、あの……」

「お前に見せたいモノがある」


そして連れて行かれたのは、新作が展示されている隣のBギャラリー。


「あっ……」


今まで居たAギャラリーとは全く雰囲気が違う。


室内は壁も床も白一色でガランとしていて、照明は天井のスポットライト一台のみ。その光が照らしているのは、おそらくイーゼルに置かれた絵画。不確かな表現になったのは、イーゼルに光沢のある白い布が掛けられていたから。


「あれは……」

「Arielがこの個展の為に描いた新作だよ。Arielの希望で個展が開催されるまで内容はシークレット。だから、まだ誰にも見せてない」


まだ誰も見てない新作がすぐそこにあると思うとまた興奮してテンションが上がる。


「本当はプレオープンはしない予定だったが、ちょっと色々あってな、明日、個展がオープンする前に関係者にお披露目することになったんだ」


零士先生はそこまで言うとニヤリと笑い「見たいか?」って好奇心をくすぐるようなことを言う。「もちろん見たい!」と言い掛けたのだけれど、思い直してすぐに首を横に振った。