アンティークの椅子をAギャラリーに運び入れた頃には、ほぼ作業は終わっていて、最後に全員で明日のスケジュールを確認する。
スタッフが会社に戻って行く中、私はギャラリーに残り、ひとつひとつの絵を確認しながら資料に書かれたArielが絵に込めた思いを頭に叩き込んでいく。
私にとっても春華堂の社員として最後の仕事だ。ミスなく終わらせないと……
すると誰も居ないはずの背後から突然「頑張ってるな」って声を掛けられた。驚いて振り返ると、そこには、腕組をした零士先生の姿が……
集中していたから零士先生が後ろに居たことに全く気付かなかった。
「そんな怖い顔で睨み付けたら、絵に穴が開くぞ」
「……茶化さないでください」
膝に手を当て脱力してする私の横で、零士先生がArielの絵を見つめ目を細める。
「いよいよだな」
「はい……」
「心配していた薫の親父さんも明日は来れると連絡をもらった。問題は何もない。きっと成功するさ」
「……はい」
そう返事をしたものの、本当に何も問題はないんだろうか?
横目で零士先生の顔を見上げれば、柔らかい笑みを浮かべた彼の横顔が視界に入り胸が苦しくなる。
この笑顔を後何回見ることができるんだろう。
切ない想いが胸に広がっていく――と、その時、彼が私の方を見て怪訝な顔をした。
「なんか言いたそうな顔してるな?」
「べ、別に言いたいことなんて……あっ、そうだ……」
「なんだ?」
「あ、あの……私がモデルをした絵はコンテストに間に合ったんですか?」



