イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】


事務所に届いていたアンティークの椅子の梱包を解きながら、間近で見たArielの絵の感想を言い合っていると、ふとある疑問が頭を掠めた。


「あの、普通、Arielほどの世界的な画家が個展を開くとなると、前日にプレオープンとかするものじゃないんですか?」

「うん、普通はスポンサーやマスコミ関係者を集めてプレオープンするよね。でも、今回はそういうのは必要ないってことで行われなかったんだ」

「必要ない?」

「そう。Arielにスポンサーは居ないからね。それに、Ariel本人がマスコミ嫌いだから……」


なるほど、だから必要ないってワケか……


納得して頷くと、彼が手に持っていたハサミを床に置き、ボソッと呟く。


「でも、Ariel側のスタッフは誰も現れないんだよなぁ~。信頼して任せてくれているって思えば嬉しいことだけど、何もかも任せて心配じゃないのかな?」

「じゃあ、レイアウトとかは常務の指示で?」

「うん、普段はクールな常務がテンション高く仕切ってるよ」

「そうなんだ」


彼の話しを聞き、もしかしたら、零士先生はArielの個展が終わったら春華堂を辞めるのでは……と思ってしまう。


最後の大きな仕事を成功させ、薫さんと共に春華堂を辞めるつもりなんじゃあ……


私にはもう関係ないことだけど、本当にそれでいいのかと疑問に思ってしまう。零士先生が社長と絶縁し、春華堂を去ったとして、家族になった三人は幸せになれるんだろうか?