イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】


緊張気味にAギャラリーを覗くと、既に作品が搬入されていて春華堂のスタッフが資料を確認しながら作品を慎重に壁に掛けている。


わぁ……本物のArielの絵だ……


スタッフに挨拶を済ませ、壁に掛けられた絵の前に立つ。


雑誌や写真でしか見ることができなかったArielの絵が目の前にある。そう思うだけで興奮して握り締めた手に汗が滲む。


「あぁ、素敵……」


Arielの絵のほとんどが細部まで綿密に描かれた写実的な人物画。雑誌で見た時は、まるで写真のようだと思ったけど、実物は写真を通り越して生きているみたいだ。目を閉じた絵などは、今にも瞼を開きそうでドキッとする。


いつまでも眺めていたいと思ったけど、そうもいかない。私も作業に参加しようと近くに居たスタッフに声を掛けると、一階の事務所に発注していたアンティークの椅子が届いているはずだから、それを運び入れて欲しいと頼まれた。


若い男性スタッフとふたりで事務所向かう途中、零士先生は来てないのか聞いてみたら、都内のホテルでArielと最終打ち合わせをしていると言う。


「えぇっ! Ariel来てるんですか?」

「あぁ、来てるみたいだよ。明日が楽しみだね」


彼も油絵が趣味でArielの絵が見たくて個展スタッフを志願したそうだ。


「実は、私もArielの個展のお手伝いがしたくて春華堂に入社したんです」

「へぇ~そうなんだ」


この会話でお互いArielファンだと分かり、一気に打ち解けて話しが弾む。