あくまでもこれは私の想像だけど、飯島さんも「それ、当たっているかもね」と何度も頷いている。


「宇都宮さんは辛いかもだけど、常務が全てを捨てて矢城さんと生きると決めたのなら、諦めるしかないわね」


そう、もう零士先生の気持ちは、私の手の届かない所に行ってしまったんだ……



その二十分後、私は零士先生に指示された通り会社を出て矢城ギャラリーに向かった。


大通りを右に折れ細い路地を行けば、見慣れた矢城ギャラリーのレトロな建物が見えてくる。


閉館してからは建物の周りはとても静かだった。けれど、今日はいつもと様子が違っていて数人のマスコミ関係者と思われる人達がカメラを持ちウロウロしている。


おそらく、Arielの個展を明日に控え、Ariel本人が来館するんじゃないかと期待しているんだろう。誰も知らないArielの正体を写真に収めることができれば、世界的な大スクープだ。


もちろんそれは、個展を仕切っている春華堂でも分かっているから、担当スタッフが玄関の前に立ち、トラブルがないよう目を光らせている。


Arielが来るかはまだ不明だけど、館長に直接お礼を言いたいと言っていたようだし、もし本当に本人が来てくれたら……もう何も思い残すことはない。心置きなく春華堂を去ることができる。


玄関のスタッフに身分証を提示し、矢城ギャラリーに入ると個展が開かれる二階へと急ぐ。資料では、一番広いAギャラリーに十点の絵画が展示され、隣のBギャラリーには、新作の一点が展示されることになっていた。