「社長にしてみれば、なんで今更……って感じなんじゃない?」
「でも、今だから許せるってことにはならないんでしょうか? もう十六年も前のことだし……」
「まぁね、普通はそうかもしれないけど、ウチの社長は、約束したことを反故にするような人間は人として最低だって考えの人だから。何年経とうと約束を破ったことが許せないんじゃないかしら?
でも、タイミング悪いわよね。あのふたりもよりを戻すなら、もう少し上手くやれば良かったのに」
今、役員の間では、春華堂の後継者を誰にするかで揉めている最中。社長の息子である零士先生を押す常務派と、経験を重視し、世襲を嫌う専務派で役員の意見は真っ二つに分かれている。
しかし、やはり重要視されているのは社長の意見だ。そんな時に社長の機嫌を損ねてしまえば、零士先生の社長就任もどうなるか分からない。
でも私には、なんとなく零士先生の気持ちが分かるような気がした。
「きっと常務は、社長になれなくてもいいと思っているんですよ。だから薫さんとのことを社長に知られても構わないと思った……」
「はぁ? どういうこと?」
零士先生は以前、画家になりたくて春華堂を辞める決意をしている。でも、その願いが叶わず画家になる夢を諦めた。その理由は、零士先生が社長になることを薫さんが強く望んだから。薫さんの為に社長になろうとしていたんだ。
でも、その薫さんが零士先生と生きていくと決めたとしたら……薫さんだって、零士先生と付き合えば、彼が後継者から外されるということは予想できたはず。それでも付き合ったってことは……薫さんは覚悟を決めたんだ。
そして零士先生も薫さんと環ちゃんの為に全てを捨てる覚悟をした。本当の家族になる為に……



