――一週間後、Ariel個展の前日。


いよいよ明日から矢城ギャラリーでArielの個展が始まる。


絵画界で今一番、注目されているArielが日本で初めて個展を開くということで、最近は新聞やネットニュースなどで頻繁に紹介され、開催元の春華堂にも問い合わせの電話が多いと聞く。


「総務の人に聞いたんだけど、問い合わせの電話が頻繁に掛かってきて仕事にならないから、専門の回線を新たに開設して対応しているそうよ」


ランチ帰りにカフェに寄ってくれた文具売り場担当の女子社員がブルーベリーのタルトを頬張りながら、興奮気味に話している。


「そうなんだ。総務も大変ね」


早めにランチから戻って来た飯島さんがカフェラテをカウンターの上に置き、気の毒そうに眉を下げると女子社員は身を乗り出し、辺りを気にしながら小声で言う。


「困っているのはそれだけじゃないのよ。なんかね、総務の担当者にも個展の情報が全く入らないみたいで、問い合わせがきて質問されても答えられなくて困ってるみたい」

「はぁ? それどういうこと?」

「Ariel側の担当者と連絡を取っているのは専務ひとりだけなんだって。秘書の矢城さんも蚊帳の外らしいわ。だから、どのくらいの規模の個展で、展示物が販売されるのかどうかも分からないみたいよ」

「へぇ~謎に包まれた個展ってワケね。でも、Ariel自身が謎の存在だから、それも注目を集める為のAriel側の戦略なんじゃない?」

「あぁ、なるほど……そうかもね」