振り返ると輝樹君が零士先生をジッと見つめている。


「こんな時間に男を部屋に入れるのは感心しないな」


零士先生は私と輝樹君を交互に眺め、吐き捨てるようにそう言うと強引に部屋に上がろうとした。すると輝樹君が何を思ったか、突然「あなたこそ、こんな時間に失礼じゃないですか?」なんて怒鳴るから、一気に緊張が高まる。


妙な雰囲気になってしまったことに焦り、輝樹君のパーカーの袖を遠慮気味に引っ張って小さく首を振るも、彼は零士先生から視線を逸らそうとしない。


「あなたはもう希穂ちゃんの彼氏じゃない。帰ってください」

「偉そうなことを言ってくれるな。だがな、これは俺と希穂の問題だ。関係のないお前こそ帰ったらどうだ?」


まさに一触即発。睨み合ったふたりはどちらも引かず、今にも殴り合いになりそうな雰囲気。このままではいけないと、ふたりの間に割って入ろうとした時だった。輝樹君がとんでもないことを言い出したんだ。


「関係なくはないですよ。僕と希穂ちゃんはたった今、付き合うことになったんですから」

「て、輝樹君……」


私の肩を抱き、誇らし気に胸を張る輝樹君を見た瞬間、彼は私が冗談まじりに言ったあの言葉通り、お芝居をしてくれているんだと思った。


輝樹君の優しさを感じ、彼がここまでしてくれたのだから私も覚悟を決めなくちゃと顔を上げる。そして呆気に取られ絶句している零士先生を真っすぐ見つめ言ったんだ。


「私の彼氏は、零士先生じゃありません。輝樹君です」と――