今まで憐れむような目で私を見つめていた輝樹君の表情が一変。「それ、ホントなの?」と大声で怒鳴り、私の体を揺する。なので、ライブハウスで聞いた三人のやり取りを話すと、やっと納得したように息を吐いた。


「環ちゃん本人にも真実を言えないくらいだから、よっぽどの事情があるってのは想像がつくよ。でも、希穂ちゃんと付き合うと決めたのなら、君にはちゃんと説明すべきだよ」

「うん……けど、もう別れちゃったし……」


苦笑いを浮かべ、ため息を付くと玄関のチャイムが鳴り、私と輝樹君は顔を見合わせる。


「こんな時間に誰だろう?」

「もしかして、紺野先輩?」

「まさか……」


とは言ったものの、内心、そうだったらどんなにいいだろう……と思っていた。


本音を言えば、矢城ギャラリーを飛び出した時、私は心のどこかで彼が追いかけてきて『俺が好きなのは希穂だけだ』と言ってくれるのを期待していた。私から別れを切り出しておいて都合のいいことを考えていると自分でも呆れてしまう。


追いかけてきてくれるのなら、とっくの昔に来てくれてるよね。


だから「希穂ちゃんが紺野先輩と本気で別れるつもりなら、出ない方がいい」と言う輝樹の言葉を一笑する。


「零士先生じゃないよ。でも、もし零士先生だったら、輝樹君、私の彼氏のふりして追い返してくれる?」


半分冗談、半分本気でそんなことを言っている間もチャイムは連打され鳴り止む気配はない。