深く長い息を吐き、立ち上がると零士先生に背を向け淡々と服を着る。そして一番言いたくない言葉を喉の奥から押し出した。


「零士先生……別れよう?」


笑顔でそう言えた自分を褒めてあげたいと思った。


「……今、なんて言った?」

「別れよう……そう言ったの」


おそらく零士先生は、私がこの場面で別れを切り出すなんて予想もしていなかったろう。私だってまさか自分から彼に別れを告げるなんて想像もしていなかった。


「意味が分からない。なぜ別れなきゃいけないんだ?」


口調は穏やかだったが、その目は私の胸の内を探るように鋭く光っている。


「私は零士先生が好き……誰よりも好き。でも、零士先生が好きなのは私じゃない。それが分かったから……」

「益々意味が分からない。俺に希穂より好きな女が居るって言うのなら、それが誰か言ってみろ」

「えっ……」


零士先生が一番好きな人……その名前を私に言わせるつもり? それって、結構残酷なことだよ……


「零士先生が好きな人だもの。零士先生が一番よく分かっているでしょ?」

「分からないから聞いてんだろ!」


どんなに問い詰められても、薫さんの名前を出すことができなかった。その名前を言った瞬間、理性が崩壊して言わなくていいことまで言ってしまいそうだったから。なのに零士先生の追及は激しくなるばかり。


「どうして認めてくれないの? 零士先生言ってたじゃない。俺もまだ吹っ切れてないって!」


笑顔でさよならするつもりだったに……とうとう我慢できず言ってしまった。


自分が情けなくて堪えていた涙が大粒の滴となって零れ落ちる。