「その時間で、私の……裸婦画を描いて……」


それが私が下した決断。あの婦人がそうしたように、私も最後の思い出にありのままの自分を愛する人に描いてもらいたい。そして別れた後、私の代わりに裸婦画をあなたの傍に置いて欲しい……


でも、そのことはまだ秘密。この絵が完成するまでは恋人のままで居たいから。


「面白いことを言うな。でもなぁ、このアトリエを使える時間は限られている。今日中に撤退しないといけないからな。そんな大作は描けないぞ」

「分かってる。小さくていいの。だからキャンバスも用意してきた」


鞄と一緒に持ってきた紙袋の中からF3号の小さなキャンバスを取り出し、彼に向かって差し出した。


このキャンバスは今朝、輝樹君に無理を言って用意してもらった物。


「本気か?」

「本気だよ。今の私を描いて欲しいの。零士先生が見たままの私を……」

「分かった。そこまで言うなら描こう」


それから私は何時間も一糸纏わぬ姿で彼の熱い視線を受け続けた。


頬が熱い……恥ずかしい。でも、それ以上に幸せだった。


今だけは、零士先生は私のモノ。私だけを見つめ、私のことだけを考えてくれている。


「いい表情だ。ゾクゾクするよ」


興奮気味に絵筆を動かす彼の姿を目に焼き付けようと瞬きするのも忘れ見つめていると、零士先生が大きく仰け反り伸びをする。


「よし! なんとか形になった。まだ細かい部分は手を入れなきゃいけないが、ほぼ完成だ」

「あぁ……」


良かった……もうこれで思い残すことは何もない。