よく見れば、確かにあの時の婦人だけど、春華堂で会った時とはまるで別人。


質素で地味だった服装は高級そうなスーツに変わり、白髪混じでパサついていた髪は艶やかなライトブラウンに染められ綺麗にセットされている。


あの時より十歳は若く見える。さすが詐欺師だ……あ、いやいや、感心している場合じゃない。婦人には言いたいことも聞きたいことも山ほど有る。


しかし全力で婦人の元に駆け寄ったまではよかったが、混乱して言葉が出てこない。そんな私を複雑な表情で見つめていた婦人が何かを決意したように深呼吸をし、ブランドのバックの中から厚みのある白い封筒を取り出した。


「これは?」

「あなたを騙して踏み倒した百万円よ。どうしてもこれをあなたに返したくて……」


驚いて封筒の中を確認すると、確かに銀行の帯封が付いた一万円の束が入っている。


「えっ? どうして? なんで返してくれるの?」


詐欺師がわざわざお金を返しに来るなんて聞いたことがない。だから益々混乱して困惑の表情で婦人を凝視した。


「私がどういうことをしている人間か、もう知っているわよね?」


その言葉に頷くと婦人はバツが悪そうに苦笑いを浮かべる。


「おなたを騙したのは事実だけど、全てが作り話ってワケじゃないのよ」


婦人曰く――実際に初恋の相手は売れない画家で、親に結婚を反対され別れる時、自分を忘れてほしくなくて裸婦画を描いて貰ったそうだ。


「もちろん、あの裸婦画ではないけどね。私が付き合っていた人は、今どこで何をしているか……生きているのかさえ分からない」