イジワルなくちびるから~…甘い嘘。【完】


気のせいかもしれないな。もし会ったことがあるなら彼女の方も気付くはずだし、私の思い過ごしかも……


納得してピサを頬張ると隣から大絶叫が聞こえてきた。


「おい! 誰が全部食っていいと言った? これは俺のビザだぞ!」

「あ……」


無意識の内にピザを完食していた私に零士先生が唇を尖らせ冷めた視線を向ける。


その様子を見ていた桔平さんが「へぇ~零士がそんなガキみたいなこと言うとはな~」ってクスクス笑ったその直後、零士先生のスーツの内ポケットからスマホの着信音が聞こえてきた。


相手を確認して店の入り口の方に歩き出した零士先生の背中を目で追っていると、零士先生と入れ違いに店に入ってきたカップルが私たちから少し離れたカウンター席に座り、それを見た愛花さんがそのカップルの元へと歩いて行く。


すると桔平さんがホッとしたように息を吐き「零士もやっと吹っ切れたか……」と独り言のように呟いた。


「えっ?」

「あ、いや、零士はずっと彼女も作らずひとりだったから、もう特定の女性は作らないのかと思っていたんだが……それだけあなたに魅力があったってことでしょうね」

「えっ、ずっと彼女が居なかったんですか?」


魅力があると褒められたことより、あの零士先生にまともに付き合った彼女が居なかったということの方に食い付いてしまった。


「う~ん、まぁ、それなりに遊んではいたと思うよ。なんと言っても春華堂の御曹司で、あの容姿だからね。言い寄ってくる女性は少なくはなかったはずだ。でも、本気で付き合った女性は……記憶にないな~」


ということは、零士先生が言っていたのは嘘じゃなかったってこと?