カウンターに座った零士先生が横目で私をチラリと見て「ちょっと気になることがあってな……」なんて意味深なことを言うから、それだけで緊張して顔が強張る。
「気になることですか?」
不思議顔の飯島さんに笑顔で頷き、また私の方に視線を向けたその時、エレベターの到着音が聞こえ、額装された絵画を大事そうに抱えた薫さんが現れた。
「常務、言われた通り持ってきたわよ」
それは、大阪の収集家から買い戻したあの裸婦画だった。零士先生はどんなに高額でも収集家の言い値で買い戻すと言っていたが、収集家はいい人だったようで、自分が支払った三百万で買い取りを承諾してくれたそうだ。
零士先生は薫さんに裸婦画をギャラリーの元あった場所に戻すよう指示すると安堵の表情を見せる。
「詐欺絡みのいわく付きの品だからな。後々面倒なことになるのを避けたかったんだろう」
「そうですか……でも良かった」
ホッとして戻ってきた裸婦画を眺めていると、並んで立っていた零士先生がさり気なく私の腰に手をまわし「まだその気にならないか?」って耳元で囁くからドキッとする。
零士先生ったら、薫さんが後ろを向いてるからって、聞こえたらどうするの?
「そ、それは、まだ検討中で……」
でもそう言った後、ふと思った。薫さんが目の前に居るのに平気でそんなことを言うってことは、零士先生は本当に私のことを……
信じていいの? 自分の気持ちに素直になっても構わない?
自問自答を繰り返していたら、背後から飯島さんの声がした。