――結局、その後の私は魂が抜けたみたいにグダグタで、零士先生もモデル続行は不可能だと思ったのだろう。今日の創作は中止になった。


私の様子を心配した零士先生がマンションまで送ると言ってくれたが、グダグタの原因の零士先生とこれ以上一緒に居たら本当にポックリ逝ってしまいそうだったので、頑なにそれを拒否し、逃げるようにマンションに帰って来た。


で、部屋に入るなりヘナヘナと座り込み、虚ろな目で一点を見つめる。


零士先生が私を好きだと言ってくれた……


その言葉を聞きたくて私は何年も彼を待ち続けてきたんだ。でも、実際にそう言われると嬉しさより、なんだか怖くて……素直にその気持ちを受け入れることができない。


そして私はまた、間の抜けた顔で斜め上をぼんやり眺め、とうとう白々と夜が明けるまで一睡もできなかった。というワケで、最悪な顔で出社して飯島さんにドン引きされる。


「ちょっと、目が血走ってるわよ。それに、そのどす黒いくま……どうしたの?」

「はぁ……昨夜は眠れなくて……」


ほぼ意識を失っていたあの状態から考えれば、ここまで復活して仕事に来れたのは奇跡だ。


そんなことを思いつつ、モップで床掃除をしていると飯島さんの「おはようございます」という爽やかな声がホール内に響いた。


「おはよう。掃除中に悪いが、コーヒーを頼む」


ゲッ! この声は……零士先生。


「常務が朝一で私のコーヒーを飲みに来てくださるなんて、珍しいですね」