……絵を辞める決断をした一番の理由が私?


にわかには信じられず、首を振りながら零士先生を直視すると、大きな手が私の頬を包み、彼の唇がフワリと額に触れた。


初めて感じる柔らかく温かい感覚に心臓がドクリと大きな音を立て、電流が走ったみたいに体が痺れる。


すると零士先生がいつもの甘い声で「俺が好きなのは、希穂、お前だよ」なんて言うから、一瞬、呼吸をするのを忘れ意識が飛びそうになった。


零士先生が私を好きだなんて、これは本当に現実なんだろうか? もしかして、私は起きたまま夢を見てるんじゃ……


とことん臆病になっていた私はどうしてもその言葉を信じることができず、彼の胸を押し返していた。


「う、うそ……そんなの嘘です」

「ったく、本当にお前は疑い深いヤツだな。まぁいい。お前がその気になるまで気長に待つさ」


呆れたようにため息を付く目の前の顔を瞳を震わせ見つめることしかできない。と、その時、再び顔を近づけてきた零士先生が更に私を動揺させるようなことを言う。


「初めてのセックスは優しくしてやるから心配するな。それまでは、この体を他の男に触れさせるんじゃないぞ」

「うぐっ……」


その台詞が衝撃的過ぎて全身が炎に包まれたみたいに熱くなる。そしてその熱で骨が溶けてしまったんじゃないかと思うくらい体がグニャリと曲がり、ソファーに倒れ込んでしまった。


ああぁぁ……もうダメだ……


「おい、どうした?」

「お願いです……もう何も言わないで……死んじゃいそうです」