「那月ッッッ!!!!」
後方から兄の声と走ってくる足音が聞こえる。
「あ!!お兄ちゃん!!」
「那月どこに行ってたんだ。何も無かったか?大丈夫か!?」
息を切らしながら、私の前で止まる。
「ごめんなさい…道に迷っちゃって。でもお兄ちゃん、バイトなんじゃ…」
道に迷ったと言うと兄はほっとした表情を浮かべた。
「携帯繋がらなかったから、家にかけたんだけどそれにも出なかったから心配になって早く上がらせてもらったんだよ…」
そんなに心配かけちゃったんだ…
「ほんとに何も無かったんだな?変なやつに絡まれたり」
「うん、大丈夫だよ?」
すごい心配してくれてる…
明日こそはちゃんと道を覚えないと…
「でも、まぁ無事でよかったよ。」
「あ、あのね!!この人が…」
さっきの彼を紹介しようと思ったが、振り向くとそこにはもう誰もいなかった。
「ん?どうした?」
兄がまた心配そうな顔でこっちを見た。
「ううん。何でもない!!」
「そうか。じゃあ、今日は俺が夜ご飯作ってやるよ。」
「ほんと!?お兄ちゃん料理出来たっけ?」
「できるできる!美味しすぎて感動して泣くなよ〜!」
そんな会話をしながら私達はエントランスに入って行った。
この時既に、運命の歯車が……
ううん…止まっていた時間が再び動き出したことなんて知る由もなかった。
