……………ん? 女じゃなく、子供? 



 ここは戦場だってことは見れば分かる。戦場にはほぼと言っていいほど老若関係ない。


 そんな戦場でも目を引くのが性別の差。

 つまり、女が戦場にいること。


 女であることよりも子供であることで相手を驚かしうるのは、完全な庇護対象であるほどの……


 私はそこでようやく自分の体の異変に気づき、そろそろと自分の首から下を見た。


 「……ぎゃああああああっ!」


 辺りに私の甲高い悲鳴が響き渡った。


 ペタペタと自分の身体を触って、いろいろと確かめる。

 ……あっ、ついてない。良かった。
 今さら幼児化してついでに男の子になりましたとか言われても困る。


 その時、目の前にいた男の人が後ろにグラリと倒れ込んだ。

 そっと目を向けると、心臓の部分に丁度刀で刺したくらいの穴が開いている。


 「堪忍なぁ」


 背後から柔らかい声が聞こえてきて、フワリと温かい腕に包まれた。
 
 かと思うと、声の持ち主は私を軽々と抱き上げ、その場を後にした。


 何だか声の主は誤解しているようだけど、今の私にその誤解を解く余裕は一切ない。

 どうやら目の前で人一人が死んだことに対する悲鳴だと思ったらしい。


 いやいやいや。あの悲鳴は思いっきり自分のことだったんです。

 グルングルンにほとんどない脳ミソフル回転させて考え込まなきゃいけないくらいの事態が発覚したんです。


 後から思えば、目の前で人一人死んだのに自分の事にしか思考がいかないくらい混乱していた。



 「君、どないしてここに来れたん?」
 「……」


 ふと頭上から聞こえた言葉に顔を上げると、第一印象は綺麗なお兄さん、だった。

 闇夜に紛れてしまいそうな漆黒の髪、それを無造作に肩の位置で緩く結わえている。

 すらりとした柳のような細身で、声も高くもなく低くもなく抱っこしてもらっていなければ女の人と見間違えたかもしれない。


 でも、綺麗すぎて、怖い。そんな感じ。


 思わずじーっと見つめていると、パタパタと誰かが走り寄ってくる音がした。

 彼が私から目を離し、その音の方へ顔を向けると、私もつられるように同じ方向へ視線を移した。


 ……はっ、そんな場合ではない!


 私は再び脳ミソフル回転の工程に戻った。


 私をこの世界に連れてきて、あまつさえこの体にしたのは誰なんだ?

 ここが私がいた世界じゃないってのは分かってる。

 だって刀だもん。刀持って殺しあいしてんだもん。

 もしかしてタイムスリップ? 江戸時代とかそこらにタイムスリップしちゃった?

 そう考えるとこんなことができるのは……


 「おい、もう撤収だとさ。……なんだソイツ」
 「ん? 僕を助けてくれた子ぉなんよ」
 「はぁ? 意味分かんねぇけど、早く家に帰してやれよ」
 「そうやね。……君、どこの子? おうちの名前は?」

 「……かみちゃま?」

 「え?」
 「は?」


 ん?


 この時、私は無意識に呟いていた。正直なんにも聞いちゃいない。

 とりあえず、笑っとけ精神だよね。うん、やりましたよ? 黙って笑顔。

 二人が目を見開いて目配せしてるけど、なんで?