こうなってしまったわけもわからず、柄にもなく苛立ちに似た感情が自分の平常心にちょっかいをかける。



「名簿、仕分けるのよろしく」



この人はなんてタイミングで現れるの。

しかも話しかけてくるなんて。



「よろしく」



しばらく動けずにいた自分に向かって、圧力をかける様に言う。

その場の空気が重さを変えたのを感じた。



「聞こえてへんの?」



ハッと我にかえったと思えば、角野先輩の顔が目に入る。

その表情は、無表情で何も読み取れない。

人間というのは、感情が顔に映らない時ほど恐いものはない。

普段ニコニコしている人だったからに尚更だ。

でも、恐怖に押し負かされている場合じゃない。

気力を振り絞って、空気に押さえ付けられた重い口を開く。



「あ、あの…角野せ―」



呼び止めて謝ろうと思った。

しかし、自分が声を発した瞬間、それを合図にしたかの様に背中を見せつけて去っていった。