それは自分も記憶に残っている。
だって、あれは角野先輩を初めて認識した時だったから。
「だから、書類は全部1枚でまとめてって言っとるやん!フォント小さくしたらええだけやんか!」
「でも、これが一番小さいやつで…」
「じゃあ、行数狭めるとかあるやろ!」
「すいません…。すぐにやり直します」
まただ。
自分もどれだけ先輩たちに叱られれば、気がすむんだろう。
考えているつもりだったのに、また出来ない。
わかってはいる。
つもり、は出来ていないのと一緒。
高校の部活の顧問によく言われた。
本当に自分でも自分が嫌になる。
みんなが出来るのに、自分ただ一人だけが何も出来ない。
どうして…
先輩は蒸気機関車の様にぷんぷんと頭から煙を蒸しながら去っていく。
その後ろ姿を見届けながら、あまりにも自分の情けなさに胸が重苦しくなっていくのを感じた。
「本当に反省してんのかね、あの子。あれで何回目?学習能力、無いんちゃう?」
「あはは。本当、よく受かったもんだわ。今年はうちも甘かったのね」
先輩方がわざと聞こえる様に喋るっている。
ケラケラとした高らかな声と視線が、痛い程に突き刺さる。
いつまでも仕事が出来ない自分が怒られるのは、当然のことだった。
むしろ辞めさせられないのが、不思議なくらいだ。
出来なくて、先輩たちに呆れられて、今日も出来ずにため息をつかれての繰り返し。
どんなに頑張っていても約1ヶ月半もそれが続けば、しまいには涙が溢れそうになる。
それを必死にせき止める。
こんなことで泣いたら、情けない。
でも、やっぱり人間。
感情を完璧に無くすだなんて無理。
蝋人形には、絶対なれやしない。



